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「華を織る」
03



「‥‥」
「可哀そうな話なんですよ。親が強引に結婚を決めて来ましてね。添い遂げる為には東雲を捨てても良い、と」
「駆け落ちか」
「ええ。西風でひっそりと二人で暮らすそうです」
「‥‥」
「どうぞ若い二人の望みを、叶えてやって貰えませんでしょうか」
 これは彼等からのほんの気持ちです――再び強く押し付けられてきた包みを、彼は暫く考え込んだ後に受け取った。小さいながらにずしりと重い。


「‥‥分かった。矢崎商隊、許可証の通りだ。入国を許可する」
「ありがとうございます」
 安堵した様な表情を浮かべると、矢崎はさり気無く彼の傍を離れる。無論彼もその時には包みを袖の中へと隠し持ち、何事も無かった様に頷くだけだ。
「今日は入出国が多くてね、早く行ってくれ」
「はい、只今」


 ‥‥気の毒な話じゃないか、と彼は包みの重さを感じながら心の中で呟く。あんなに美しい人が好きでも無い相手に嫁がされるとは。俺が黙っていればこの二人は幸せに暮らす事が出来るなら、それはそれで良いじゃないか。
 それに、思わぬ臨時収入も飛び込んできた。仕事が終わったら、娘に菓子の一つでも買って帰ってやろう――
「はい、次!」
 包みが万一にも落ちない様にしっかりと袖の中へ仕舞い込み、彼は矢崎へ背を向ける。彼には捌かなければならない通行人が、まだまだ沢山待っているのだ。






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あきゅろす。
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