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「華を織る」
02



 矢崎の声を遮った彼は、つかつかと馬車へと近寄る。さほど勤勉で無いとは言え何年も国境警備兵をやっているのだ、矢崎達は上手く誤魔化しているつもりの様だが、皆が馬車の方を気に掛けている事ぐらい、彼には一目で分かった。
「あ、あの??」
 焦った様な矢崎の制止の声を降り切り、彼は馬車の中を覗き込む。山と積まれた荷物を見渡し、やがて奥の方に置かれていた大振りの木箱へ目を付けた。
「あれは?」
「‥‥」
 険しい表情のまま黙りこくってしまった矢崎に代わり、荷台に飛び乗った彼は木箱の蓋を開ける。案の定、暗がりの中できらりと光る一対の目と視線が合った。


「――やはり、もう一人居たか」
 女、だ。随分と若く、上等そうな衣服を身に纏っている。しかもかなり相当に綺麗な‥‥
「‥‥と、ともかく、だ」
 思わず木箱の中の女性に見惚れてしまっていた自身に気付き、彼は慌てて視線を逸らす。「――申告以外の『品』は持ち込めない事ぐらい、あんたも知ってるだろう?」


 大方駆け落ちなのだろう。裕福な家庭の令嬢と出入りの業者の、道ならぬ恋と言った処か。気の良いこの旅商人の事だ、頼み込まれて協力する気になったに違いない――そんな筋書きを想像した彼は、改めて矢崎へと向き直った。
「あの男とこの木箱は、我が国へ入れる事は出来ない」
「そこを何とか」
 不意に、矢崎の声が低く押し殺された。周囲に素早く目を遣り誰も見ていない事を確認すると、そっと彼の掌へと小さな包みを押し付ける。「――そこを、何とか」



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あきゅろす。
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