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「華を織る」
07



 楚々とした端正な美人と。
 城下の住民然とした男性。
 どちらにも見覚えがある。いや見覚えどころではない、ほんの一時の邂逅だったが今でも鮮烈に焼付いている。


「‥‥やっぱり貴方達でしたか。八重殿、華剣様」
 予想していたとは言え、改めて目の前で見ると咄嗟に言葉が出てこない。どうやら自分がしたためた書状は見当違いでは無かった様だ。
「久し振り、矢崎殿」
「短夜祭以来ですね、華剣様」
「お邪魔しています、矢崎殿」
「‥‥」


――ああ勿体無い。
 こんな状況に申し訳無いとは思いつつも、矢崎は天を――この場合天井だが――仰がずには居られない。
 本当に勿体無い。
 この声さえ無ければ、完璧な美人なのに‥‥
「?どうかしました?矢崎殿」
「‥‥いえちょっと、天井を眺めたい気分でして」
「は?」
「いえすみません、お構いなく――ええとそれで、どうしたんです?」
 諸々の感情は取り敢えず押し止め、矢崎は何時もの自分を取り戻すと二人に向けて悪戯っぽく微笑む。「――ご夫婦お揃いで」


「夫婦、に見えますか」
「それは良かったと言うか何と言うか」
 顔を見合わせて苦笑し合う桜木と宮古だったが、やがて表情を改めると桜木が改めて矢崎へと向き直った。
「一つ頼みがあるんだ、矢崎殿」



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