「華を織る」
05
「矢崎様、お帰りなさいませ」
するとそこへ従業員と矢崎の会話を聞きつけたらしい、宿の主人が帳場の奥から顔を出すと小走りに矢崎の許へと近寄って来た。
「お客様がいらっしゃってますよ。部下の方がおいでになったので、お部屋へお通ししました」
「客?俺に?」
「ええ、ご夫婦連れの」
「‥‥夫婦、」
誰だろう?そんな予定は無いのだが――不思議そうな矢崎の様子には気付かずに、宿の主人は微笑みながら階段を見上げた。
「奥方がまた、大層お美しい方で」
階上を見上げたまま、主人はうっとりとした表情を浮かべる。「――さぞや、お声も綺麗なんでしょうなあ」
「え?」
「何もおっしゃらなかったんですよ。旦那様の方が全て話されていて」
「‥‥」
そこで漸く一人の人物に思い当たった矢崎は、思わず黙り込む。
大層な美人。
声を出さない。
‥‥もしかして。
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