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「華を織る」
04



◆◆◆◆◆


「いやあ、良い買い物が出来たなあ」
 陽が沈む間際の城下全体が茜色に染まる時刻。仕入れ先から宿泊先へと戻る矢崎の足取りは随分と軽やかだった。
 東雲城下には懇意にしている取引先が幾つかある矢崎なのだが、今回はその中の一つが女性用の装飾品を安く提供してくれたのだ。
 どうやら別口での発注数を間違えて在庫超過となっていた為の様だが、理由はどうであれ良い買い物が出来た事に変わりは無い。
「運が良いぞ、今日の俺は」


 連日朝から晩まで城下を駆け回った買付も昨日で一段落しており、部下達には今日は休みを出してある。とは言え矢崎達の商隊は全員で夕飯を取るのが習わしである為、特に用事の無い者は宿に戻って来ている事だろう。
「ま、あいつらに城下のお嬢様方を口説き落とせる甲斐性は無いだろうけどね」
 自分の事は棚に上げ、一人納得する矢崎。歩く事暫く後、やがて定宿の建物が見えてきた。


「あ、お帰りなさい、矢崎様!」
 すっかり顔馴染みとなっている若い従業員が、矢崎の姿を認めると掃除の手を止めて明るく声を掛ける。
 建物自体は随分と古くお世辞にも一流とは言えない宿だが、清掃と修理がきちんと施されている屋内は見掛け以上に住み心地が良く、何より働く人々の丁寧な仕事振りを矢崎はとても気に入っていた。
「ただいま。他の連中は?」
「皆様、もうお戻りになってますよ」
 言いながら従業員は客室へと続く階段を指差す。どうやら今日も変わり映えのしない面々で、夕飯の卓を囲む事になりそうだ。



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