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「華を織る」
06



「‥‥って、ちょっと待って」
 そのまま沈思の海に浸りかけた亜紀だったが、自分を取り巻く状況に違和感を覚えて顔を上げた。
 此処は自分の部屋では無い‥‥?一瞬、不思議そうな表情を浮かべた亜紀だが、その次の瞬間、脳内に一気に記憶が蘇り顔を強張らせる。


 そうだ、俺。
 客人の男に追われて、それで‥‥


「‥‥」
 そろそろと音を立てない様に寝具から――どうやら寝具に寝かされていたようだ――降りた亜紀は、足音を忍ばせる様にしながら慎重に周囲を歩き回る。思い出した記憶の内容を改めて考えたいところだが、先ずは自分の居場所を把握する事が第一だ。
 手探りで壁を見付け、そのまま左手を触れさせながらぐるりと一周する。歩数から考えるにどうやら小振りの、しかも建物の一角にある部屋の様だった。


 どんな部屋なのか‥‥不自由な視覚に代わり触覚や聴覚を研ぎ澄まし、一つ一つ確かめてゆく。
 肌触りの良い寝具に、座り心地の良さそうな椅子。がっしりと頑丈そうな机。程好い弾力のある敷物。ひんやりと滑らかな水差し。
 攫われてきた経緯の割には拘束もされていないし、きちんと寝台に寝かされていた。部屋全体も清潔に保たれている様である。
 どうやら今直ぐに――今後については不明だが――危害を加えられる心配は無さそうだ。


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