「華を織る」 05 『布を織ってはいけないよ』 「っ!!」 はっと亜紀は目を開けた。 飛び上がる様に上半身を起こすと、溜息を吐きながら髪をかき上げる。 「‥‥布、だったのか」 そうだ。 そうだった。 布を織ってはいけないと、言われたんだった。 あの日。最後に両親と言葉を交わした日。 自分は布を織る事を禁じられたんだった。 何故、今まで忘れてしまっていたんだろう? 『お前が織る布には、力があるみたいなんだ』 困惑を滲ませながらも、穏やかに言い聞かせる父の声。 『あの織子と同じ様な力が、ね』 気遣わしげに自分を見詰める、母の真剣な瞳。 『だから亜紀、もうこれ以上布を織ってはいけないよ?』 明日、皆で神官様の処へ相談しに行こうな――そう言った父は、なあに心配いらないさと、亜紀の頭を軽く撫でたのだった。 『大丈夫、きっと何とかなるさ。だって亜紀は、何も悪い事なんてしていないんだから‥‥』 ああ、俺は何で今まで忘れてしまっていたんだろう、こんなに大事な話を。 あの次の日は、父と母と共に教会へと行く予定だったのだ。父の言う『力』とやらの真偽を見極める為に。 そうなんだ。 あの夜、あんな事件が起こらなければ、俺は‥‥ [*前][次#] [戻る] |