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「華を織る」
02



 無言のまま、思わず顔を見合わせる清水と樫山。困惑気味の表情を浮かべる二人を前に、桜木が畳み掛ける様に言葉を続けた。
「俺の今までに溜まっている有休を、いや、今後の休みは全部返上して構わない。だからお願いだ、明日から暫く休みを、」
「分かった分かった、ちょっと待って、桜木」
 取り敢えず落ち着いてと清水は桜木を手で制すると、整理する様に眼鏡の縁へと手を遣った。
「ええとつまり、桜木は明日から暫くの間、行方をくらますって事?」
「まあ‥‥そうなるかな」
「これは一応、念の為に聞くんだけど。桜木には華剣だって言う自覚はある?その上で、無期限の休みを取ろうとしている?」
「‥‥」


 次は桜木が黙する番である。
 清水の言う通り、今の桜木は曲りなりにも四剣の一角を占める存在であるのだ。個人の意思が尊重されるよりも先に、公的な責務を優先させなければいけない立場にある事は、桜木も重々承知している。
 いやそもそも華剣云々の前に、職に就いている者が『終わりの分からない休み』を取る事は、常識外れである。解雇されても文句は言えない。
「‥‥」
 承知はしている。
 それでも、どうしても行かなければいけないのだ。
 例え今の居場所を全て失くす事になろうとも、握りたい手があるのだ、抱きしめたい身体があるのだ、護りたい心があるのだ‥‥


「――黙って行けば良いのに」
 黙りこくる桜木を暫く見詰めていた清水だったが、やがて表情を和らげると苦笑交じりに呟いた。
「と言うか行くよね、普通。それをこうやってわざわざ言う辺りが、桜木らしいって言うか何ていうか」
 ねえ?と樫山を振り返り同意を求める様に笑い掛けると、再び桜木の方へと向き直る。
「分かった。行っておいで桜木。きっと大事な用事なんだろう?」
「‥‥ああ」
 清水の問い掛けに、桜木は深く頷く。



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あきゅろす。
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