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「華を織る」
04



「宮古副官」
 詰所への近道なのか、宮古が細い通路へと角を曲がったところで、そっと背後から呼び止める。
 驚いた様に身構えながら振り返った宮古だったが、相手が矢崎だと分かるとほっと安堵した様に微笑んだ――一瞬、懐へ入れられた手に何か握られていた様な、その何かが鋭利な輝きを放っていた様な、そして場合によってはその何かを投げつけられていた事は、気付かなかった事にしておこうと思う矢崎である。
「ああ矢崎殿、お久し振りです。全く気が付きませんでした」
「華剣副官の宮古殿に気付かれなかったとは、嬉しい事です」


 帽子を取りながら一礼すると楽しげに微笑む矢崎。旅商人としての愛想良さもあるが、純粋に美人と話が出来て嬉しいと言う男心もある。
「今日は城下でお仕事ですか?」
「ええ、ちょっと仕入れの関係で立ち寄りましてね」
「それはお疲れ様です」
「いえいえ、疲れる程働いていませんから。――ところで宮古殿、少々お願いがありまして」
「‥‥あの、申し訳ありません。調達部門には生憎知り合いが居ないのですが、」
 どうやら都城での商売についての橋渡しを依頼されると勘違いしたらしい、困った様に言う宮古へいやいやと矢崎は首を横へ振った。


「今回は私的なお願いでして。これを華剣様へお届け願えませんか?」
「華剣へ?」
 差し出されたのは、一通の書状である。意外そうに呟いた宮古は、何度か矢崎の顔と書状を見比べた後、やがて分かりましたと頷いた。
「分かりました。お預かりします」
「あ、危ない物は入っていませんから。念の為」
「はい、矢崎殿を我々は信用しております」


 冗談のつもりで言った言葉に対して、宮古から真摯な返事が返ってきてしまい、矢崎はあははははと誤魔化す様に笑う。やはりこの方は良い。
「どうぞよろしくお願いします‥‥それでは、これで」
 通りの向こう側から数人の声が近付いて来るのを感じ、矢崎は素早く宮古の側を離れた。
 愛用の帽子を再び頭に乗せ、そのまま何事も無かったかの様に通りを去って行く矢崎の背中を見送りながら、宮古は改めて預かった書状を眺めた。「――華剣へ、か」




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あきゅろす。
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