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「華を織る」
01 ◆5◆
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 宵の口に差し掛かったばかりの城下街は、昼間とはまた違った活気に満ち溢れていた。
 空を見上げれば相変わらず暗灰色の雲が厚く垂れ込め、足元に広がる石畳は雨の名残で黒く濡れ光っているが、夜の住人達は大して気にする素振りも無く、店から店へと楽しげに渡り歩いて行く。
 そんな常と変わらない大小様々な明りの灯る賑やかな大通りを、脇目も振らず足早に急ぐ三人が居た。
 工房「織人」の織師・睦人と麻乃、そして桜木である。


 行方知れずとなった亜紀が図書館へ向かう途中だった事を思い出し、一縷の望みを託して訪ねて来た睦人だったが、彼等の大事な少年の姿を見付ける事は叶わなかった。
 反対に「亜紀が連れ去られたかもしれない」との一報に居てもたってもいられなくなった麻乃と桜木は、睦人に頼み込み工房へと共に向かう事になったのである。
「ご連絡が遅くなってしまって申し訳ありません」
 老人然といった見掛けに反して、道行く人々を身軽な動作で避けながら二人の先導役を務める睦人は、済まなさそうな表情で麻乃の方を見遣った。


「工房の職人総出で亜紀を探し回っておりまして。亜紀が図書館へ向かう途中だった事を思い出したのは、夕刻になってからでしてのう」
「いえ。それより何故、あの子が連れ去られる事に‥‥一体誰に」
「それが、我々にもさっぱりなんですじゃ。和人は以前、店で見掛けた事があると言っておるんですが」
「工房のお客様が連れ去った、と言う事ですか?」
「常連の方では無く、最近来られるようになった客人でして。物腰は柔らかなんじゃが、どうにも嫌な目で亜紀の事を見ていた様なんですじゃ」
「‥‥」



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あきゅろす。
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