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「華を織る」
02




「絹糸の強度を甘く見なさんな、お客様」
「ほほほほ、織師の腕力もな」
 両足を強く踏ん張り、ぎりぎりと絹糸を引く老織師達。腰を低く保ちしっかりと地面を捉えている姿は、織機に向かっている熟練職人の様に揺るがない。
 腕力が無理ならばと短剣で身体に纏わりつく糸を切断しようと試みる客人だが、その腕にも糸は巻き付いており全ての動きを阻む。
「‥‥」
 身動きが取れない客人に対し、老織師達は改めてお客様、と穏やかに声を掛けた。


「お客様。どうぞこのまま、お静かにお帰り願いませんかのう?」
「我等も貴方様の事は忘れますから、貴方様も亜紀の事はお忘れ下され」
「妹御の反物は、他店でお買い求め頂けませんかのう」
「この界隈には質の良い店が、幾らでもありますゆえ」
「‥‥」
 事を荒立てたく無ければこのままお引き取りを――説得を試みる老織師達に対し、客人は相変わらず無言を貫いたままだ。
 これは諦めてくれたのか‥‥ほっと安堵の息を吐きかけた二人の目に、しかし思わぬ光景が飛び込んできた。




 客人の右腕が。
 ずるりと抜け落ちた。




「おぉっ!」
「なんとっ?」
 驚きの声を上げる老織師達を余所に、右腕が抜けた事で出来た一瞬の緩みを見逃さず、客人は絹糸の網を突破しようと試みる。
 どうやら外された右腕は義手だったらしい、僅かな隙間で短剣を器用に操ると瞬く間に戒めは解かれた。袖の中から転がり落ちようとする右腕を巧みに空中で受け止め、ゆっくりと振り返った客人の視線の先にあるのは、
「亜紀!」
「逃げるんじゃ、早く!」
「!!」
 声の限りと叫ぶ老人の声に、亜紀は弾かれた様に小雨の中を駆け出す。



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あきゅろす。
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