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「華を織る」
04



 危険だ。
 危険だ。


 こめかみが一気に熱を持ち、がんがんと音を立てて鳴り響く。
 縺れそうになる足を何とか前へ前へと動かし、一歩でも遠く客人から離れる様にそれだけを考えながら裏道を駆け走る。
 直ぐに追い付かれるかもしれないと恐れを抱きながらの逃走だったが、予想に反して客人の足取りは緩慢だった。
 こんな目の不自由な少年など、本気で追い掛けずとも大丈夫だと高を括っているのか。何にしろ、亜紀には逃げる事以外に出来る事は無い。
 必死で駆ける亜紀の足は、いつしかつい先程出たばかりの工房の裏口へと向かっていた。


「おや、亜紀」
「忘れ物かい?」
 丁度其処へ、朝一番に糸問屋へ買い付に行っていた老織師二人が通り掛かる。
 極限にまで張詰めていた亜紀の緊張は、その途端、一気に振り切れた。
「和爺様!雅爺様!」
「‥‥どうしたのじゃ?」
 大声を上げながら傘も差さずに駆け寄ってくる亜紀に、只ならぬ気配に気付いたのか老織師の声が低くなる。
「あ、あの、お客様が、その、」
 その後は言葉にならない。喘ぐようにしながら息を吸う亜紀の背後へ、その時、ゆらりと影の様に客人が姿を現した。


「おや、先日もお越し頂いた方ですな。再びのお足運び、ありがとうございま‥‥」
 目聡く見つけた和人は、客人に対し穏やかに頭を下げかける‥‥しかし中途半端な位置で、その頭はぴたりと止まった。
 客人が黙したまま、静かに懐から短剣を取り出したからだ。
「‥‥お客様、申し訳ないのですが、我が工房では銃刀類の持ち込みはご遠慮頂いておりましてね」
「心配はご無用ですご老人方。その可愛らしい織師殿さえ此方へ来て頂ければ、工房には用がありませんよ」
「‥‥」
「‥‥」



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