「華を織る」
03
「丁度良かった、今から貴方の工房へ行こうと思っていたのですよ」
穏やかな声のまま客人はそう言うと、亜紀の方へと一歩近寄る。
「そう、でしたか」
目に見えない腕に胸を強く押された様に、亜紀は一歩後ずさる。
「織師さん?」
「あの、申し訳ありません、今から少し用事がありまして」
何だろう、この違和感。
相手は妹思いの優しい客人だ。それなのに。
「ああ、お出掛けでしたか。それは失礼を」
「工房の方には爺‥‥いえ、他の織師達が居りますので。是非、お越し頂ければ」
‥‥禍々しい。
拭いきれない不吉な気配。
「――それじゃあ、駄目なんですよ」
「え?」
「俺が用があるのは、貴方なんですよ、亜紀」
「俺、ですか?」
じり、とまた一歩、客人が近寄る。
じり、ともう一歩、亜紀は後ずさる。
「しかし、あの、本当に申し訳ないのですが、今から」
「貴方に、是非とも来て頂きたい場所があるんですよ」
言うが否や、客人はざっと一息に間合いを詰めて来た。
咄嗟に亜紀は傘を二人の間に滑り込ませ客人の動きを封じると、身を翻して一目散に逃げる。
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