「華を織る」 02 もう、何も無かった事にしたくないんだ。 忘れた振りをして、笑っていたくはないんだ。 思い出して、きちんと向き合って、全てを受け止めて。 そして、大事な人達に自分の過去を聞いてもらいたい。 麻乃様に。 桜木様に。 そして、 そして‥‥ 「、」 不意に、はっと亜紀は顔を上げた。 地元民しか知らない細い裏道だと言うのに、何とも言えない違和感を覚えたからである。 全身の毛がざっと逆立つような、危険な匂いを含んだ違和感。 「‥‥」 何だ? 前?後ろ?――いや、前。 前から何かが‥‥誰かが、来る。 「こんにちは、織師さん」 思わず身構えた亜紀に対し、しかし掛けられたのは酷く穏やかな声音だった。 「‥‥あ、こんにちは」 その漂う違和感と長閑な声の落差に、亜紀はいささか戸惑いながらも取り敢えず返事を返す。 この声は‥‥ああそうだ、工房のお客様の声だ。妹さんの反物を買いに二回程いらしてくれた、物静かな雰囲気の男性の客人。 ――でも、何かが変だ。 上手く言葉には表せないけれど、でも、どうしようもなく違和感が拭えない‥‥ [*前][次#] [戻る] |