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「華を織る」
01 ◆3◆
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 その日は朝から細かな小雨が降り続いていた。
 空一面に低く暗灰色の雲が立ち込め、音も無く城下を濡らして行く雨は一向に止む気配を見せない。
「この分だと、今日は止まないかなあ‥‥」
 窓の外に広がる雨の気配を感じながら、亜紀は手早く図書館へ向かう為の支度をしていた。
 こんな天気の悪い日は出掛けたくないのが本音だが――杖を片手に傘を差さねばいけないし、何より大事な本を濡らしてしまう可能性もある――せっかく丸一日休暇を貰ったのだし、部屋に籠っているのも勿体ない気もする。麻乃にも会いたい。
 雨が酷くなる様子も無さそうだし、気を付けて歩けば大丈夫だろう‥‥心の中でそう呟くと、亜紀は心を決めた様に一つ頷いた。


 もう一度、濡れない様に本が包まれているか確認した後、亜紀は荷物を背負い自室の扉を開けた。店先からは客人と対応する波瀬の声が聞こえてきた為、裏口から出る。
「行ってきます!」
「おう、行っておいで!」
「気を付けるんじゃぞ!」
 工房内へ向かって声を掛けると、機織の音と共に老織師の返事が廊下の向こうから聞こえてきた。杖を持ち、傘を差し、降り頻る雨の中へ歩き出す。


――お願いした新聞、そろそろ届いている頃かな。
 裏口が面しているのは人気の少ない裏道だが、通い慣れた亜紀の足取りに迷いは無い。立て込む軒下をすり抜ける様にして歩いて行く。
――麻乃様、もう読んだのかな。
 真面目な麻乃様の事だから、きっと読み聞かせをする前に一通り目を通してくれているだろう。
――‥‥驚かせて、しまったかもしれないな。
 ごめんなさい麻乃様。心の中で謝りながらも、でもと亜紀は呟く。



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