「華を織る」
06
『‥‥そこへああ、何という偶然か。
彼等が糸商人の家族を取り囲んだ時と同じくして、城下で続発していた竜巻が、この家の近くで発生したのだ。
かくして憎き強盗集団と善良なる夫婦は、竜巻に巻き込まれ命を落とし。
そして幼き一人息子・亜紀だけが爆風の煽りを受け、窓から裏庭へと転げ落ち、間一髪難を逃れたのだ。
倒れた灯りから出火したのであろう、隣人達が異変に気付き掛け付けた時には、既にこの家は燃え盛る炎に包まれており、少年が唯一人、裏庭の隅で泣いていたという。
何という偶然、何という悲劇、そして何という奇跡。――しかし哀れで仕方がない。亡くなった夫婦は西風出身で東雲に係累は無く、一年で最も心躍る短夜祭を前に、少年はたった一人取り残されてしまったのだ。
‥‥彼の今後の人生に幸多からん事を祈りつつ、この拙い筆を置くとしよう。』
「‥‥何だ、これは」
読み終えた後も直ぐには紙面から目を離す事が出来ず、思わず桜木は低い声を漏らした。
混乱気味の頭を持て余しながら、必死になって話を整理する。
「この『亜紀』って‥‥亜紀の事なのか?」
まさか、そんな。
偶然同じ名前だっただけじゃないのか?
‥‥いやしかし、麻乃のあの様子。あれは明らかに、何かに対して酷く動揺していた。
その麻乃があんなに険しい表情でこの机を、この新聞を見詰めていたのだ。だとすれば、この『亜紀』は恐らく‥‥
「亜紀の両親は西風出身だったのか‥‥いや違う、そうじゃなくて、」
亜紀が?
亜紀が、あの事件の当事者だったのか?
あんなに明るく屈託のない顔で笑う、あんなに元気で働き者の、あの亜紀が?
確かに少年が一人、生き残ったという事を聞いた覚えはある。一人で生きて行くには大変だろうなと思った事も。
しかしまさか、
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