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「華を織る」
05



 訝しげな桜木の視線から逃げる様に、慌てて椅子から立ち上がる麻乃。そのまま止める間もなく、隣部屋へと向かってしまう。
 ――どうしたんだ、あいつ。
 何事かに心を囚われている――しかもあまり良く無い事象に――麻乃が幾らか心配になり、一旦桜木は巻物を卓の横へ巻き置いた。立ち上がると、文机の傍へ近寄る。
 確か、此処を見ていたと思うんだが‥‥と机上を眺めると、一束の書類が置かれているのが目に入った。
「‥‥新聞?」
 どうやら城下での出来事をまとめた紙面を表にして、折り畳んであるらしい。
 『連続強盗殺人集団、殲滅!! 〜その夜、何が起こったのか〜』と言う煽り文句が目に入り、何となく桜木は記事へと目を落とす。



『おお、何という悲劇であろう!
 この様な悲劇が、この東雲国内で起こってしまって良いのであろうか。
 事の発端は暫く前に遡る。
 皆様も御存じであろう、ここ最近、城下を恐怖のどん底へ突き落している連続強盗殺人集団の事を。
 彼等が行った、おぞましい非道の数々を‥‥』



 ――ああ、覚えているな、この事件。
 記事を読み進めながら桜木は頷く。10年ほど前、まだ彼が何の肩書も持たない一介の剣士だった頃に、起こった事件だった。
 その年の寒さが緩んだ頃から発生した連続強盗は、殺人さえ厭わない残忍さで城下の住民を震撼させ続け、短夜祭を前にしても捕まる気配は無かった。
 ――俺達も巡邏に駆り出されたんだっけ。
 丁度西風との小競り合いが続発していた頃だった為、剣士達は寝る間もない程だった事を思い出す。
 でも確か、短夜祭の直前に押し入った城下の民家で、全員竜巻に巻き込まれて死亡したんじゃなかったか?‥‥記憶を手繰りながら、桜木は更に読み進める。



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