「華を織る」
04
――しかし、と護人の絵と対面しながらも、桜木は首を傾げる。
何故彼は、俺に訴えて来たのだろう。
それこそ剣の達人なら、今までにも幾らだって居た筈だ。歴代の四剣だけでなく、他の三国にも名のある剣豪は居る。
剣を扱えなかった無念を晴らしたいのなら、大切な人を護るという想いを人に託したいのなら。もっと早い時代の剣士でも良かったのではないか。
それが何故、今この時になって。しかも何故、この俺に。
彼は、こんなにも強く訴えてきたのだろう。
《触れるな》
「っ、」
は、と桜木は顔を上げる。
‥‥もしかして。
あの声も、関係があるのか?
あの声も、お前なのか?
何か、亜紀を護らなくてはいけない事情があるのだろうか?
もしかして亜紀と織子は、何か因縁があるのでは‥‥?
「‥‥」
絵画を前にあれこれと思いを巡らしていた桜木だったが、その時、ふと視界に麻乃の姿が映り込んだ。
先程から黙っているのは此方の邪魔をしない為だと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。何やら考え込む様な表情を浮かべたまま、じっと文机の方を見詰めている。
「麻乃?」
そっとその名を呼べば、不自然な程に驚いた様子を見せて桜木の方を振り向いた。
「あ‥‥ああ、すみません、桜木。少し考え事をしていまして」
「どうしたんだ、今日は様子がおかしいぞ」
「いえ。――ああ、お茶を淹れてきますね」
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