「華を織る」
02
‥‥中央に描かれているのは、光り輝く剣を地面に突き立てている老人。その剣先で地面が四つに分かれている。
黒々と崩れ落ちた建物。呆然と佇む人々。そして、老人の傍らに横たわる少年の肩には、織師をの証である無染めの長布が掛かっている。
「これは、あの神話の?」
「ええ、貴方がおっしゃっていた話に似ていたので、預かってきました」
首肯した麻乃へ頷き返すと、再び桜木は目の前の光景へと視線を注ぐ。
老人――多分、神だろう――の右奥、積み重なった残骸の手前に蹲る人が見える。
砕けかけた黒い剣を片手に、うつ伏せに倒れているのは。
――あ。
その時。
桜木の頭の中で、何かが合致する様に、かちりと音を立てた。
――お前‥‥か?
思わず心の中で呟いた途端、それまで片隅に埋もれていた一つの記憶が、一気に蘇ってくる。
今までにも時折思い出しかけ、その度にあと一歩の処で消えて去ってしまった夢の断片。
『護れなかった』
『 を護れなかった』
『大事な、何よりも愛しい、愛しい‥‥』
目も開けられない程に荒れ狂う風の中。
今にも張り裂けそうな慟哭が闇を貫く。
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