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「華を織る」
01 ◆2◆
◆2◆


「麻乃」
 普段は麻乃の部屋の掃出し窓から直接上り込む桜木だったが、その日は珍しく図書館の正面である大扉をくぐった。
 聳え並ぶ書棚を横目に真っ直ぐ作業室へと向かうと、幼馴染の名を呼ぶ。
「ああ桜木、お呼び立てしてすみません」
 呼び声に自席から立ちあがった麻乃は、同僚達が山と積み上げた書籍や資料の間を器用に通り抜けると、桜木の前へ立ち――少し驚いた様に、その全身を眺めた。「――おや、今日はめかし込んでいますね」
「装備品の点検期間だからな。仕方がないさ」


 厳めしい正装の首元を緩める振りをしながら桜木は冗談ぽく笑って見せたが、何時もは穏やかな麻乃の顔が常に無く硬い事を不思議に思う‥‥どうしたんだ、幼馴染がこんな表情をするのは珍しい。
「何かあったのか?麻乃」
 桜木の問い掛けに一瞬口を開きかけた麻乃だったが、しかし考え直す様に首を横に振った。
「‥‥いえ、何でもありませんよ。それより依頼の件について、お見せしたい物があるのです」
 作業室の扉を閉めた麻乃は、此方へどうぞと、自室へと続く廊下へ桜木を導く様に歩き出す。
 幼馴染の表情が些か気にはなったが、桜木も取り敢えずは大人しく麻乃の後について行った。


 やがて辿り着いた自室の扉を開けると、麻乃は桜木を中へと招いた。卓を挟んで向い合せに設えられた椅子の一つへ、腰掛ける様に促す。
「こちらです」
 言いながら麻乃が卓上に乗せたのは、一つの古めかしい巻物だった。窓から覗く陽は大きく傾きかけ幾らか橙色を帯びてはいるが、枠を大きく取ってある為に自然光だけでも十分に紙面を見て取れる。
 麻乃の手によって丁寧に広げられた其を覗き込んだ桜木は、おやと首を傾げた。
「――絵?」
「『図書館で保管して欲しい』と、館長が旅商人の方から渡されたそうです」



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あきゅろす。
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