「華を織る」
07
――ああ、それにしても驚いた。
いつもはなかなか亜紀に触れられない反動の為か、握手だけではなく思わず頭まで撫でてしまった。亜紀の方も嫌がっている雰囲気は無かったので、調子に乗ってあの時の様に指先で合図を送ってしまったのだが‥‥分かって貰えただろうか。
あの時の別れ際に覗いた固く強張った表情がずっと気になっていたが、今回は浮かべられる事は無く、むしろささやかながらも笑みが浮かべられていた様な気がする。
取り敢えずは亜紀に笑顔を取り戻す事が出来た様で、桜木は胸を撫で下ろしていた。
‥‥帝妃が一度振り返って、悪戯っぽく笑ったのがいささか気に掛かるが。
「桜木」
横合いから声を掛けられて振り返ると、横道から樫山が姿を現したところだった。桜木と同様、彼もまた正装をし剣を佩いている。
「樫山、槍は?」
「ああ、先に詰所へ預けておいた」
「せっかくだから、剣同士で遣り合ってみるか?」
「ああ、それも良いな。手合せ願おう」
頷く樫山。無双の槍遣いとして知られている樫山だが、剣に関してもなかなかの遣い手である。桜木とて気を抜けば、あっさりと一本取られてしまう。
「そうだ。さっき、帝妃様と綾菜殿と会ったぞ」
「ああ、今日は図書館に用があると言っていたな」
「樫山、お前、良い嫁さん貰ったなあ」
「?どうした、いきなり」
「いや、ちょっとそう思ってさ」
あの優しい笑みと気遣いに、今日は助けられた。もう一度心の中で礼を述べながら、桜木は樫山と連れ立って詰所へと歩き出す。
――亜紀。
今度、ちゃんと話すから。
ごめんな。
‥‥でも、良かった。
あの時の辛そうな表情を消す事が出来て、本当に良かった‥‥
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