「華を織る」
04
「‥‥方よ、亜紀」
何とか誤魔化すと、帝妃は桜木を不思議そうに見上げる――あら、名前は教えちゃ駄目だったかしら?
問い掛ける様な視線へ心底申し訳なさそうに頷いた桜木は、亜紀の正面へと移動するとそっとその手を取った。優しく握手をする。
「あ、あの」
戸惑う亜紀の声に心配いらないと言う風に握手をする手に力を込めると、もう片方の手を静かに亜紀の頭へと置いた。そのまま頭を撫でる。
「‥‥」
――ああ、この手だ。
不意に、亜紀の胸の中がふわりと温かな物で満たされた。
そうだ、この手。
この、強くて優しい手。
あの時と変わらない。
『おりしどの?』と、指先で掌に綴ってくれたあの時から、この人はちっとも変わっていない‥‥
とんとん、と頭に乗せられた指先が、優しく髪に合図を送ってくれる。
それはまるで元気だった?と聞いている様で。
大丈夫だよと笑ってくれている様で。
――ああ、良かった。
本当に、良かった‥‥
亜紀は思わず泣き出しそうになるのを、堪えるのに精一杯だった。
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