「華を織る」
02
流石にそこまでご一緒させて頂く訳には、と慌てた亜紀だったが、帝妃様、と帝妃の向こう側から優しげな声がした。
「帝妃様、亜紀殿にもご用事がお有りなのですから、無理強いはいけませんよ?」
ね、亜紀殿?と綾菜から救いの言葉を振られ、亜紀はこくこくと賛同する。
「あの、帝妃様、大変申し訳ありませんが、」
「うーん、そうなのね、残念」
でも今度は一緒に行きましょうね?と念を押され、はいと頷く亜紀だった。
「あ、帝妃様!」
そうこう言いながらのんびりと歩いている三人だったが、その間にも通りかかった人々から時折挨拶の言葉が投げ掛けられる。元々は庶民の出であり、図書館で働いていた為に都城内の知り合いも多く、帝妃となった今でも気安く話し掛けられる存在らしい。
今も向かいから歩いてきた職人らしき男性が帝妃に気付き、帽子を取りながら丁寧に頭を下げた。
「こんにちは、家族の皆さんはお元気?」
「はい、お陰様で。倅は先に詰所へ行って、剣士様方の剣の手入れをさせて貰ってます」
「そうですか。よろしくお願いしますね」
「はい、お任せください」
にこりと笑った職人は、もう一度頭を下げた後、東の剣の詰所がある方角へと歩いて行く。
そのまま図書館への道程を歩き進めようとした三人だったが、ふと亜紀が何事かに気付いた風に足を止めた。
「亜紀?どうしたの?」
「あ、いえ、足音が聞こえたので」
帝妃の訝しそうな声に、我に返った亜紀は再び足を動かし始める。しかしその敏い耳は、確かに一つの足音を捉えていた。
「‥‥」
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