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「華を織る」
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 短夜祭の頃に比べて幾分柔らかくなった陽射しが、昼下がりの都城へ穏やかに降り注ぐ。
 先日の西風軍による玉城攻撃時には衝撃が走った都城だったが、その後は再攻撃の気配も無く、取り敢えずは平穏を取り戻していた。
 午前中や夕刻には出入りする人々で騒がしくなる都城の通路だが、この時刻には人通りも疎らである。
 ともすれば眠気を誘われそうになる長閑な空気の中を、亜紀はやや緊張気味に歩いていた。
 何せ共に歩くのは二人の美しき大人の女性。しかも一人は護衛女官長、そしてもう一人は帝妃という豪華な顔ぶれなのだ。緊張しない方がどうかしている。


 事の発端は、帝妃の一言からだった。
 いつも通りに反物を持参し、暫くの歓談の後、「この後は図書館へ行くつもりなの?亜紀」という帝妃の質問に、亜紀が素直に頷いてしまったからである。
 「あら私も館長に用があるの。丁度良いから一緒に行きましょ?」と帝妃が提案し、亜紀が辞退する暇も無くあれよあれよと言ううちに、三人で連れ立って歩く羽目に――畏れ多くも――なったのだ。


「ねえ亜紀、図書館の本はどう?面白い?」
「はい、都城の図書館は種類も冊数も豊富で、題名を聞くだけでもとても楽しいです」
「それは良かった。元司書としては、利用者の感想がとても気になっていたの」
 亜紀の返事に帝妃も安心したらしい、紹介した甲斐があったわと嬉しそうに微笑んだ。
「あ、そうだ。折角だから亜紀も館長に会って行ったらどう?」
「えええ?あ、いえ、その、」
「ねえ、そうしましょうよ。館長の翠茶は美味しいんだから」



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