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「華を織る」
04



◆◆◆◆◆


 都城城下に広がる飲食店街の一角に、その居酒屋はあった。
 大通りに面している上に間口の広い入り易そうな店構えの為か、地元の常連客だけではなく各地からの旅行客も訪れ、今夜も大勢の客でごった返している様だ。
 複数人で賑やかに卓を囲んでいる客も多いが、一人客でも肩身の狭い思いをする事無く気軽に食事を楽しむ事が出来、適度に棲み分けが出来ている点もこの店が繁盛している理由の一つだった。


 そんな明るい雰囲気の店内に、今また一人の男がふらりと姿を現した。
「はい、いらっしゃい!御一人様ですね?」
 目聡く見つけた店員が元気良く声を掛け、隅に空いていた一人掛けの卓へと素早く案内する。
「麦酒と山鳥の串焼き、季節の野菜蒸し、あと前菜三品盛り合わせを頼む」
「かしこまりました!」
 壁に張り出してある看板を見上げながら何品か注文すると、男は静かに椅子へと腰を下ろした。。
 程無く運ばれてきた酒を一口含み、ふうと息を吐く。


 ‥‥その顔を良く見ると、「妹へ贈る布が欲しい」と工房・織人へ二度姿を現した男だと言う事が分かる。
 しかし今はその時の愛想の良い雰囲気は無く、かと言って裏道で見せた冷徹な気配も無く。巧妙に個性を消しながら、見事に店内の空気へと溶け込んでいた。注文を取った店員も隣席の客も、数瞬後にはその顔を忘れてしまうだろう。
「‥‥」
 賑やかな喧騒の中に身を浸し、張詰めていた心を束の間緩める。四六時中気を張っていては身がもたない、適度に抜く事も大事なのだ。特にこんな店で妙な殺気を発していては、かえって悪目立ちしてしまう。
 もう一度、ゆっくりと息を吐く。
 波の様に寄せ来る人々のざわめきが遠い記憶の音と被り、男の心の中にふと昔の情景を呼び起こした。


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