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「華を織る」
07

◆◆◆◆◆


 雪と氷に閉されがちな北雪国が技術の粋を集めて建設した、首都地下に広がる市場の一角。
 先程この市場に着いたばかりの旅商人・矢崎は、疲れた様子も見せる事無く、帽子を御者台へ置くと手慣れた様子で荷解きを始めた。
 東雲で仕入れた装飾品がある程度売り捌けたら、今度は北雪の精巧な遠眼鏡や航海機器を仕入れ、南波の市場で船乗り相手に商売をする予定だ。
 その後は南波の珊瑚や真珠を買入れ、東雲の城下の工房で加工を依頼し、次は西風にでも行ってみるか‥‥商品を台の上へ手際良く並べながら矢崎がそんな事を考えていると、ふと馬車の隅で何かがぼんやりと光っているのが目に入った。


 ――何だ?
 今回、光物は仕入れていないはずだが‥‥首を傾げながら矢崎は馬車の方へと歩み寄る。やがて何が光っているか気付いた矢崎は、おい!と部下達を呼び寄せた。
「ちょっと、これを見てくれ!」
「はいはい、どうしました旦那」
「何か壊れていましたかい?‥‥って」
「え、あれ?」


 えええ?と部下達が一斉に驚きの声を上げる中、矢崎は慎重に光の元へ――木箱に吊るされていた小さな麻袋へと手を伸ばす。袋の口を開くと、先程より強い光が覗き込む彼等の顔を照らした。
「あのー、旦那」
「これって」
「例の黒水晶、ですよね?」
「‥‥ああ、そうだ」
 矢崎がゆっくりと頷くのを見届けると、部下達は再び麻袋の中を覗き込む。が、発光は長くは続かないらしく徐々に光は失われ始め、やがて元のつるりとした黒水晶が収まっているばかりになった。



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あきゅろす。
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