「華を織る」
02
場所こそ違えど、あの時も国境近くの山脈の近くで剣を交えたものだった。
夕焼けが眩しい程に山肌を染めていて、場違いだとは思いながらもその美しさに見惚れたのを覚えている。
その中にすくと一人、国境へと逃げ走る西風の兵士達を護るかの様に、鬼気迫る表情を浮かべながらたった一人で殿を指揮していたのが、この男だった。
上司が次々と倒されても尚――ああ、隊長を切ったのは俺だった――全軍総崩れとなるのを辛うじて保たせていたのは、当時はまだ小隊長だった白夜だったのだ。
「お前、あの時は小隊長だったんだよな」
「桜木こそ、まだ華剣では無かった筈だ」
「ああ、ただの一剣士だったさ」
あれから数年後に自分自身が華剣になるとは思いもよらず、先代である当時の華剣と同じ戦場に立てるのが嬉しくて仕方が無かった‥‥
「互いに随分と出世したってわけか」
「お前はともかく、俺は西風軍の中じゃ異端だよ」
「虹将軍の側近が何を言う」
ははは、と二人しておかしそうに笑い合い――そして、先に笑顔を消したのは桜木だった。
「‥‥それで、何をしに来たんだ、白夜隊長」
まさか思い出話をする為、というわけではないだろう?
言い逃れは許さないとばかりに視線に力を込めて問い詰める桜木に、白夜はそうだなと少し考える様な表情を浮かべた。
「まあ、言い遣って来たのは幾つかあるが‥‥その中の一つを挙げるとすれば、」
そう、言う否や。
白夜の身体が唐突に動いた。
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