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「華を織る」
06


◆◆◆◆◆


「――桜木様、今日はいらっしゃらないんですか」
 心底残念そうな声で言うと、亜紀は心もち肩を落とした。そんな亜紀の様子に麻乃も申し訳なさそうな表情を浮かべながら、言葉を繋げる。
「ええ、急ぎの仕事が出来たようで」
「あ、じゃあ、都城にはいないんですか?」
「そうですね‥‥その、暫く出てしまうそうですよ」


 急遽戦場に赴いたとは言う訳にもいかず、麻乃はとっさにそんな言葉で誤魔化す。しかし亜紀は麻乃を疑う素振りも無く、素直に頷いた。
「そうですか。学士様は大変ですね」
 それじゃあ仕方がないですねと納得している亜紀の姿に、麻乃は心の中でこっそりと謝罪する。
 本当の事を言ってあげたい。自分も桜木の全てを知っている訳では無いし、一般人である自分達が剣士である桜木の全てを知る事も不可能だ。それでも、今の亜紀の状態よりも幾らかは良いのではないか‥‥?


「‥‥」
 考え込んでいる麻乃の横で、亜紀もまた別の事を考えていた。
 ――会いたかったな。
 また図書館で会おうと、必ず会いに行くからと、短夜祭の時に桜木は亜紀と約束していた。仕事であるなら仕方は無いが、寂しくないと言えば嘘になる。
「お元気だと良いんですけど」
「ええ‥‥本当に」


 麻乃の声の響きが微妙に変化した事を不思議に思いながらも、再々出かけていく幼馴染を心配しての事だろうと思い直し、亜紀は窓の外へと顔を向ける。
 開け放たれた窓からは幾分涼しさの混じった風が穏やかに吹き込み、それぞれの思いを抱えながら佇む二人へ、季節の変わり目を告げていた。




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