「華を織る」
05
生き延びたければ恐怖を恥じない事。
そして恐怖に呑み込まれない事。
これが、幾多の戦場を通して「剣士・桜木」が学んだ事だった。
その上で、「指揮官・華剣」として装うべき顔がある事も、桜木は知っている。
『決してその恐怖を表に出してはいけない。』
どんなに怖くても恐ろしくても。絶望に泣きそうになっても、決して顔を歪ませてはいけない。膝を付いてはいけない。背を向けてはいけない。
冷静に余裕綽々に。何事にも動じず、時には微笑みすら浮かべて。
そして声高らかに宣言するのだ。「――我々は負けない」と。
――それに今回はこれもあるしな。
心の中で呟きながら、桜木はそっと額に手を遣る。
肌触りの良い細幅の焦茶色の布は、長年愛用しているかの様にしっかりと額へと馴染んでいた。
織手の心をそのまま映した様に丁寧に織られた布は、触っているだけで桜木の心を不思議と落ち着かせる。
これは良い安定剤を貰ったものだな‥‥心の内で考えていたつもりがうっかり表情に出てしまっていたらしい、ふと宮古が顔を覗き込んでくると、華剣こそと微笑んだ。
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