「華を織る」
03
居た。
居たじゃないか、あの男は。
国境の峠に。
あんなにも玉城の近くに。
――『ついでに玉城でも遠く眺めようかと思ったまでです』
あの男は。
西風の将軍・虹は。
付き従う部下がたった一人だけと言う、多勢に無勢の圧倒的な不利を全く気にする様子も無く。
優雅に微笑みながら、よく通る歯切れの良い声で言っていたじゃないか‥‥
「予想通り、か。って事は‥‥っと、」
「っ、」
沢渡がそこまで言った時。自身との力量の差を悟り、一旦遠巻きに二人の事を取り囲んでいた西風の兵士達が、再び意を決した様に躍り掛かって来た。
口を閉ざし槍を構え直した樫山は、振り向きざまに兵士達を払いながらも、玉城の在るだろう方向へと一瞬視線を向ける。
「‥‥」
――桜木、そっちだ。
やはり主力は玉城だ、お前の方だった。
任せたぞ、必ず守り抜いてくれ。‥‥尚も襲い掛かって来る敵兵を弾き返しながら、樫山は心の中で念じる様に呟いた。
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