「華を織る」
02
「、」
樫山の槍が鮮やかに一閃し、周囲の西風兵を薙ぎ倒す。樫山が豪剣と見るや功名心に駆られた西風の兵士達が群がって来るのだが、馬上から繰り出される槍の威力を前に、尽くその野心は叩き落される羽目となる。
「まだまだっ」
沢渡の方はと言うと、見るからに俊足そうなすらりと細身の馬に跨り、自身の細剣を器用に操りながら樫山の周囲を駆け巡る。その動きは想定以上の速さであり、運悪く対面した兵士は良い様に翻弄されるばかりであった。
「‥‥豪剣」
「‥‥ああ」
やがて擦れ違う様に馬首を反対の方向へ向け、斜めの背中合わせ状態で立ち止まった二人は、互いの肩越しに声を落として囁き合う‥‥どうやら二人とも同じ事を感じたらしい。
「こっちは囮、って事?」
「どうやら主力では無さそうだ」
やはりそうか。頷き合いながら、二人はあの伝令が届いた時の様子を思い出す。
――玉城と原野。
西風軍が二手に分かれて進撃して来たとの一報に驚愕した剣士達だったが、その衝撃から立ち直った後、真っ先に湧き上がったのはどちらが主力であるかとの疑問だった。
西風の本当の目的は、進みたい場所は果たしてどちらなのか。
誰もが抱いた問い掛けだったが、しかし彼等は直ぐにその答えへ辿り着くであろう、ある出来事を思い出すのであった。
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