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「華を織る」
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 東雲国西部に広がる、見渡す限りの草野原。
 そのまま西方へ進むと西風国との国境へ行きつく緑豊かな草原は、常であれば街道を往く旅人や、家畜の世話をする牧人以外は人の気配が無い、長閑だがいささか寂しい地帯である。


 その人手が殆ど入っていない草原で今、国境を接する両国から赴いた数多くの人馬が対峙していた。
 絶え間無い剣戟の響き、何事か叫ぶ兵士の声、そして息巻く馬の嘶き。
 本来は低木や草花に降り注ぐ筈の恵みの陽光は、居並ぶ剣や槍によって容赦無く弾き返されている。緑なす草原の中、無数に煌めく銀色の反射光は思わず目を覆う程に眩しく、そして目を離さない程に美しい。


 そんな人馬入り乱れる草いきれの中で、一際目を惹く二人の剣士がいた。
 その称名の如く豪胆に槍を振るう豪剣・樫山と、その横で俊敏に細剣を操る副官・沢渡である。
 四剣一大柄な樫山と、副官中――と言うより東の剣中――最も小柄な沢渡の組合せは、その体格差もさる事ながら、得物である武器の扱い方も正反対である故か、並立つ姿に一見違和感を覚えずにはいられない。
 しかし互いの動きを熟知している彼等はむしろその違いを十二分に利用する事で、より大きな攻撃力を生み出していた。



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あきゅろす。
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