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「華を織る」
02


「そして、今までに何度もお寄せ頂いた御好意へも深謝致します。皆様に御迷惑をお掛けする訳にはゆかないと今まで辞退して参りましたが、我国で再度協議した結果、心を改め御厚情に与る事と相成りました」
 張りのある若々しい声が、会議室内へ朗々と響き渡る。
 その感謝に溢れながらも明朗さを失わない物言いは、思わず耳を傾けずには居られない。そして一度傾けたが最後、聞く者の心へと直接的に働きかける不思議な力を持っていた。
 もし桜木がこの声を聞いていたならば、「やはり恐い男だな」と呟いていただろう。


 ‥‥いや。
「我国も以前、皆様に御助力頂きましたから」
 もう一人。
 虹の姿を眺めながら、桜木と似た様な想いを抱いた男がこの場には存在した。
「あの時の御恩に少しでも報いる事が出来るなら、東雲国民にとってこれ以上の喜びはありません」
 ――鮮烈だな。
 如才無く礼を返した天帝は、穏やかに微笑しながらも心の中では虹の様子を冷静に分析していた。――その容姿を利用して惹き付け、相手の欲する物を素早く察知し、言動を巧みに駆使して心酔させる。血筋と若さと勘の良さ、そしてそれらを効果的に発揮出来る能力。
 西風にも、なかなかどうして骨のありそうな若者が出てきたじゃないか‥‥


「ああ陛下。東の剣の方々には我国の虜囚を二度に渡り救って頂きました。重ねて御礼申し上げます」
 その内心を知ってか知らずか、天帝の方へと向き直った虹は再び深く頭を下げる。
「いえ、彼等は剣士として当然の事をしたまでです。礼には及びません」
「いいえ、何度感謝の言葉を申し上げても足りないぐらいです。‥‥それもこれも、我国の貧困が全ての根源」
 ほんの僅か。
 注意を向けていなければ聞き逃してしまう程度の僅かな虹の声色の変化に、天帝は心の中でおや?と意識を傾けた。

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あきゅろす。
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