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「華を織る」
03


 ――なあ。
 改めて剣へと向き直った桜木は、心の中でそっと語り掛ける。
 あんたの片割れの話、先日聞いたよ。その‥‥砕けたのは本当に残念だが、でもとても綺麗な黒水晶だった。
 今は矢崎と言う気の良い旅商人と一緒に旅をしているよ、と小さく笑う。
 ‥‥それで矢崎がさ、その欠片の一つを譲ってくれたんだ。俺の大事な人へって。


『我が一族に代わり、貴方の大事な方を御守りしますように』


 黒水晶を此方に差し出しながら祈る様に呟いた矢崎の声を反芻しつつ、桜木もまた目の前の剣へと祈りを捧げる。‥‥あの子は、亜紀は、本当に大事な人なんだ。どうか護ってやって欲しい。
「――護る、か」
 今度は声に出して呟きながら、桜木は思い返してみる。


 人々に恩恵の布を与えた織子。
 黒水晶の剣を授かり護人となった幼馴染。
 そして、亜紀を取巻くあの不思議な声。
 それらに共通するのは、『護りたい』という想いだ。


 苦しむ人を、
 大切な人を、
 愛しい人を、
 護りたい護りたい護りたい‥‥


 ――あと、この布も。
 額に捲いた護布へそっと指先を当てる。しっくりと肌に馴染む様に丁寧に織られた布は、亜紀の技術と想いの結晶だ。
 ‥‥結局のところ人を動かすのは人の想いなんだな、と桜木は思う。
 幸せにしたい、笑顔が見たい、その全てを護りたい。
 想いが人を動かし、人が想いを紡ぎ、その想いがまた別の誰かの元へと届く。
 そう、まるで延々と織り継がれてゆく長い長い布の様に‥‥


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