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「華を織る」
02


 この剣って抜けるのかな‥‥些か罰当たりかと思いつつも、そんな事を考えながら桜木は水晶の剣を覗き込んでみる。
 剣の周囲は一応低い柵で囲われてはいるのだが、手を伸ばせば届きそうな距離にあった。
 白石に覆われている室内の床と異なり、柵の内側は土がそのまま剥き出しになっている。剣の刀身は半分程が地中に埋まっているだろう。
 随分きっちりと刺さっているな‥‥暫くの間、剣を見詰めていた桜木だったが、再び矢崎の言葉を思い出す。


『少年が神から力を与えられた時、幼馴染にも授けられた物があったんだ』


 ――黒水晶の剣。
 矢崎の家に代々伝わるもう一振りの剣の言い伝えと、その成れの果てである黒水晶の欠片達。
 真偽については賛否両論あるだろうが、あの峠の真夜中の宴席で矢崎から伝え聞いた桜木は信じたいと――矢崎の人柄も含めて――思っていた。
 二振りの剣は一対の、言うなれば兄弟の様な関係になるのであろう。




 この地を四に裂いた水晶の剣と。
 護人と共に砕けた黒水晶の剣。




 ‥‥亜紀。剣を見詰めながら、桜木は愛しい姿を思い浮かべる。
 黒水晶の様に光沢の有る漆黒の瞳と髪を持つ、明るく笑う織師の少年。
 城下のあの小さくも活気の有る工房で、今日も他の織師達と共に働いているのだろう。
 確か、短夜祭の前は人々が衣服を新調する為に布が大量に必要とされ、一年で一番忙しい時期だと言っていた。
 直前となった今日辺りは、流石にそろそろ山場は過ぎているだろうが‥‥亜紀の事だ、頑張り過ぎて体調を崩していなければ良いのだが。





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