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「華を織る」
08





『―――は、しては駄目だよ』



「、」
 随分と久し振りに見た、あの夜の夢。両親と共に過ごした最後の夜の夢には、何時も聞き取れない台詞があった。
 記憶の中から零れ落ちてしまった言葉。不思議に思いながらも今まで特に気にはしていなかったが、何故だか妙に気になり始める‥‥そして忘れてしまった原因も。
 あの両親の忘れてしまった言葉には、何かがあるのではないか。だから今頃になって二度も夢に見たのではないか。
 大事な何かを、思い出さなければいけない何かを。自分はあの日に――両親の死んだ夜に、置いてきてしまっているのではないか‥‥?


 ――思い出そう。
 決意を込めて頷く。
 このまま全てに蓋をしたまま、楽しかった記憶だけを振り返りながら生きて行く方が良いのかもしれない。
 霧が立ち込めた様にぼんやりと霞んでしまったあの夜の光景は、見えないままにそっと消してしまった方が楽なのかもしれない。


『忘れるんだ、亜紀』
 波瀬や老人達の願いがそうである事もまた、亜紀は知っている。
 あの事件の後、目を覚ました幼い亜紀の周囲からあらゆる物を――好奇の視線を、後追い記事を、過剰な憐憫を――遠ざけてくれた事も知っている。知っているけれども。

 
 ――でも、思い出したい。
 全てを思い出したかった。
 父と母が自分に何を言いたかったのか、何を禁じたのか、あの夜何があったのか、自分は何を見たのか、何を感じたのか。
 例えその蘇った記憶に、再び打ちのめされる事があるとしても。悲しみに沈む事があるとしても。
 それでも全てを知りたいのだ。楽しい日々の想い出だけでは無い、あの夜の光景も全て引っ括めて、自分と両親との大切な記憶なのだ。


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あきゅろす。
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