「華を織る」
06
◆◆◆◆◆
朝日の差し込む廊下をゆっくりと歩いて来た亜紀は、食堂の扉の前で一旦足を止めた。
大きく息を吸い、よしと一つ頷く。
「おはようございます!」
扉を開けると同時に、出来るだけ元気良く聞こえる様にと大きめに挨拶の声を発すると、椅子に腰掛けていた老人達から口々に声が上がった。
「おお、亜紀!」
「もう起きて大丈夫かい?」
「熱は下がったのかい?」
「朝飯は食べられるかい?」
「はい、もうすっかり元気です。ご迷惑をおかけしました」
深々と頭を下げた後、顔を上げて明るく笑う。
「そうかそうか、もう元気になったのか」
「顔色も良さそうじゃ」
「ほんに良かったのう」
「三日間も寝込んでおったからのう」
「はい、その分、今日から頑張りますね」
気合を入れる様に拳を握る亜紀へ、老人達はうんうんと嬉しそうに頷いた。
「相変わらず亜紀は真面目じゃのう」
「ほんに、亜紀は良い子じゃ」
「もう『十日間』に入ったから、丁度お客さんも一段落しておるし」
「そうじゃそうじゃ、ゆっくり復帰したらええ。のう?親方」
途端、老人達からの視線を一身に受ける事になった波瀬は、黙ったまま――口を挟めなかったとも言う――ゆっくりと立ち上がる。
そして亜紀の元へと近付くと、その漆黒の髪をくしゃりと撫でた。
「もう大丈夫か?」
「はい、親方」
「そうか。元気になったか」
それは良かった。
亜紀の普段通りの明るい声に頷いた波瀬は、再びくしゃりとその髪を撫でると、自席へと戻って行く。
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