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「華を織る」
03



「‥‥あ。」
 思わず息を飲む。
 宮古の目の前に広がっているのは、繊細な装飾を施された壁に囲まれた小さな中庭だった。
 あまり訪れる者も居ないのだろう、人気も無くひっそりとした静寂に包まれているその空間は、流石大神殿の敷地内と言うべきか、芝生の手入れも行き届き塵一つ落ちていない。
「すごい‥‥」
 その静謐な空気に飲まれた様に小さな声で呟くと、そっと宮古は芝生の上へと足を踏み出した。
「こんな所にこんな場所があるなんて‥‥あれは香炉?本当に丁寧に作られている。こっちの鳥の模様も、なんて細かい‥‥」


 中庭の中心に設けられた小さな長椅子と卓へと近づくと、ゆっくりと周囲を見渡す。
 やがて卓へと視線を落とすと、そっとその表面を愛おしそうに撫でた。
「そしてこの卓、この精緻な花模様。彫り物だけで、どれだけの時間が掛かったのか‥‥」
 先程までの恐ろしく険しい表情からは一変、うっとりと半ば夢見心地の様な表情を浮かべていた宮古だったが、視界の隅に白夜の姿を認めた瞬間、上気した頭からざっと一気に血の気が引くのが分かった。


 ――しまったっ!ここにはこの人がいた‥‥!!
 取り繕うとしても既に時遅し。
 一部始終を余す所無く眺めていた白夜は、表情を強張らせた宮古へ向かいにっこりと楽しげに笑いかけた。
「どうやら宮古殿は、建物を見るのがお好きなようだ。此処までお連れした甲斐が有ると言うもの」
「‥‥姉が神殿付属の病院に勤めておりまして、その、大神殿の彫刻の素晴らしさを幼い頃からよく聞かされていましたから‥‥」
 言い訳がましく早口で弁明をする宮古。それと同時に身内についても語ってしまった事に気付き、慌てて口を閉ざしかけたが、これまた既に時遅し。


「ほう、宮古殿には姉上がいらっしゃるのか」
 無論、聞き逃す様な白夜では無く、興味津々と言った様子で宮古の方へと近づいてくる。――ええい、こっちへ来るな!
「宮古殿の姉上ならば、さぞやお美しく聡明な女性なのでしょうな」
「‥‥いえ、ごく普通の主婦ですから」
「おや、もうご結婚されているのか。それは残念」
「‥‥」



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