「華を織る」
02
「‥‥」
品の良い優しげな妙齢の女性の手を取る白夜の姿を想像しかけた宮古だったが、知らず知らずのうちにその眉間には皺が寄り始める。
何故だろう、何故か心の内から軋む音が聞こえた様な気がして、宮古は思い浮かべた姿を慌てて取り消した。
それでも心の底に澱む厭な気分はなかなか消える事が無く、宮古の抱く不機嫌さは益々拍車が掛かって行く。
――やはり逃げてしまおう。
唐突に、そんな考えが頭に浮かび上がる。
そうだ、それが良い。最初からそうすれば良かった。
どうもこの人の側に居ると調子が狂ってしまう。相手の言動に一々反応してしまい、自分を保て無くなってしまう。
きっとこの人と自分とは根本的に相性が悪いのだ。心の中心に抱える物が、決定的に違っているのだ。
このまま共に居ても気分は苛立つ一方だろう。出来るだけ早くこの場から立ち去らなければ。そうだ、さあ早く‥‥
「宮古殿」
低い声に名前を呼ばれて、はっと我に返る。と同時に腕を強く引かれ、出店と出店の隙間に空いたやっと一人通れる程度の細い脇道へと引きずり込まれた。
「白夜隊長、何をっ」
「この奥にあると思うのだが」
宮古が上げた抗議の声もさして気にする様子も見せず――そして実際に振りほどこうとしてもその手はびくともせず、益々宮古の表情は険しくなるのだが――白夜は初めて訪れた場所だとは思えない程のしっかりとした足取りで奥へと進んで行き。
「ああ、やはりそうだ。‥‥さあ、こちらへ」
‥‥ふいに。
視界が開けた。
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