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「華を織る」
01 ◆2◆

◆2◆


 ――何故、こうなったのか。
 頭を抱え込みたくなるのを何とか堪えながら、宮古は先程から自問自答を繰り返していた。
 視線の先にあるのは、半歩斜め前を歩く白夜の背中。
 「折角だから良い物を見に行こう」と賑やかな門前市へ半ば強引に連れて来られたのだが、先程から店先を覗く事もせずに黙々と歩を進めるだけである。
 一体どこまで行く気なのか、もしや市場の端から端まで歩き回るつもりなのか‥‥心の中で不満を漏らしながら、宮古はこっそりと溜息を吐く。


 二人の訪れている門前市は大神殿のお膝元と言う事もあり派手な呼び込みや装飾も少なく、人出の割にはどこか落ち着いた雰囲気を漂わせている。
 店主も旅商人などの少数を除き、殆どが多かれ少なかれ神殿に係わりを持つ者達である為、胡散臭げな品物は全くと言って良いほど無く、品質も確かな様だった。
 これが清水や晴海、或いは桜木や沢渡等と巡っているのであれば、宮古の心も随分と浮き立つのだが。


 ――そうだ、元はと言えば華剣が悪い。
 桜木が余計な一言を言ったせいで、よりによって天敵である――白夜はそうは思っていない様だが、少なくとも宮古にとっては目下最大の苦手人物だ――白夜と、そぞろ歩きをする羽目に陥ったのである。
 白夜を押し付けた後は自分だけ素早く逃げ去ってしまった上司の顔を思い出し、宮古の表情は険しさを増して行く。まったく、後で文句の一つでも言ってやろう。


 ‥‥それにしても、と宮古は改めて白夜の背中を眺める。
 短夜も間近に迫り、四国内では全ての武器の使用を禁止される十日間の休戦期間に入った。
 無論、東の剣たる宮古も西風の隊長である白夜も例外では無く、神官自治区に入るとあっては武器の携行すらも禁じられている。
 今まで戦場でしか遭遇した事の無かった人間が、丸腰のまま無防備に自分に背中を晒している‥‥それは宮古にとって何とも不思議な光景だった。
 そうか、この人にも剣を振るう事無く、穏やかに過ごす日々があるのだ。
 あるいはその手で書物を開き、あるいは翠茶を淹れ、あるいはたおやかな手を引き‥‥


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あきゅろす。
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