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「華を織る」
06

「羨ましい。私もそんな布を織る事が出来る、可愛い織師と知り合いになりたいものです」
「・・・・」
――え?
 思わず顔を上げそうになる自身を必死で制しながら、桜木は心の中で疑問の声を上げた。――今、何て言った?
「それでは東雲、西風の両方々、少し早いですが会議の間へどうぞ」
 一人ひっそりと動揺する桜木を余所に、蘇芳の先導で二人の国主は会議の間へと導かれて行く。
――可愛い、って言ったよな、今。
 確かに東雲には女性織師もいるが少数だ、大半は職人気質の男性である。それなのに何故『可愛い』?


 やがて響くゆっくりと扉が開く音に、はっと桜木は顔を上げた。
 今しも会議の間へと進もうとする虹の横顔を見詰める。
――いや、きっと考えすぎだな。
 あの将軍の事だ、ただ単に鎌を掛けられたに過ぎないのだろう・・・・そう思いながらも、何となく釈然としない桜木だった。








「――これまでは予定通りですね」
 天帝が会議の間へと無事に入った所を見届け――中に入る事が出来るのは各国主と補佐役の文官、そして神官だけだ――護衛官と今後の段取りを確認し終えた宮古は、桜木の元へと戻って来ると、ふうと安堵の息を吐いた。
「この後、各国代表者が揃い次第会議が始まり、引続き晩餐会。今夜は大神殿内に一泊して明日の午前中に会議、そして昼餐会。その後は順次解散、となっています」
「と言う事は、取り合えず晩餐会まで俺達は御役御免って事か」
「ええ。この周辺には護衛官が控えるので、我々は暫く自由にして良いと」


 頷く宮古へ対し、桜木はうーんと背を伸ばしながら部下を見た。
「どうする?宮古。このまま大神殿を見学しても良いし、近場なら外へ出る事も可能だ。お前、何処か行きたい場所は?」
「いえ、特には・・・・」
 言い掛けてはっと気付い宮古だが、遅かった。
「では宮古殿、私と一緒に散策でも如何かな?」
 背後から声を掛けられ、宮古の表情が見る見るうちに雲って行く・・・・しまった、此処にはまだこの人が居た。

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あきゅろす。
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