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「華を織る」
03


「蘇芳神官に浅葱神官ですね。お世話になります」
 護衛官を左右に従えた天帝は、微笑みながら頷く。あくまで控えめな、しかし穏やかな威厳を持ち合わせた国主としての笑みだ。
「よろしくお願い致します。滞在中は何なりとお申し付け下さい」
 再び深く頭を下げる二人の神官。やがて頭を上げた蘇芳は、それではと一同を門内へと促した。
「どうぞこちらへ。会議の間へご案内致します」





 蘇芳を先導役、浅葱を殿とし、神官二人で東雲の一団を挟む様にして会議の間へと廊下を進んで行く。
「いやしかし、こちらは随分と過ごし易いですね」
「ええ、この自治区は高原にありますから、幾分気温が低いのでしょう」
「東雲ではこの時期、昼間は窓を全開にしていますよ。流石に夜は閉めますが」
「念の為、寝具を一枚多めに用意しておきましょうか。体感的には急に気温が下がった訳ですから、夜半は肌寒いかもしれません」
「ありがたい。どうも歳を取ると寒がりになりましてね」


 前を行く蘇芳と天帝が朗らかに交わす会話が、廊下の高い天井へと心地よく響く。どうやらこの蘇芳と言う神官は、先程浮かべられた笑顔の通りに明るい性格らしい。
 厳しい修行を経て身も心も鍛え上げた神官達とは言え、共に時間を過ごしているうちに持って生まれた性格はどうしても端々に出てしまう。
 接待役の神官によって滞在中の居心地は随分と変わってくるのだが、今回はどうやら楽しい時間を過ごす事が出来そうだった。


「‥‥立派な建物ですね」
 天帝、護衛官、文官に続き東雲の中でも一番後ろ――つまり浅葱の直ぐ前――を歩く宮古は、隣を行く桜木へとそっと囁き掛けた。
 決して派手さは無いが、よくよく見ると丁寧な彫刻の施されている壁を触りながら、小さく感嘆の声を上げる。
「見てください、この壁の彫刻の滑らかな事。それからあの柱に掛けられた燭台の細工も素晴らしいです」
「おい宮古、お前これが始めての四国会議じゃないだろう?」
「ええ、数年前に参りましたが、その時は緊張していて、周りの物を見る余裕など無くて」



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あきゅろす。
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