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「華を織る」
06


 千洋の操る警備船の船員は、不審船へと既に乗り込んでいるらしい。
 遠眼鏡を覗いた限りでは、どうやら不審船の船長と切り結んでいる最中の様だった。
 それならばと大声を上げながら全速力で馳せ参じても良かったが、ここで蒼川が一計を案じたのである。
「よし!矢を放つと同時に全速前進。弓を持つ者は全員船縁から不審船の乗組員を狙えっ」
「承知っ」
「打て!」


 蒼川の掛け声を合図に、狙い澄ました剣士の手元から矢が放たれる。





◆◆◆◆◆


「船長!!」
 部下の掛け声に、千洋は僅かに顔を上げた。
 それと同時に、ひゅっと鋭い風切り音が耳に迫る。
「!」
 思わず飛び退いた千洋の剣先を掠めるようにして、一本の矢が空気を切り裂き、対峙する大柄な身体へと吸い込まれて行く。
「、なっ」
 寸での所で矢を避けた船長だが、次の瞬間、警備船に横付けされている側とは反対の海から次々と矢を打ち込まれ、一瞬声を失った。
 振り向けば先程まで島影しか見えなかった海上に、忽然と一艘の船が姿を現し全速力で此方へ向かって来ているではないか。


「船長!東雲の船です!」
「東雲?何時の間にっ」
「やれやれ、やっと来たか」
 ほぼ同時に声を上げた二人の船長。驚きの表情をする不審船側に対し、千洋の顔には会心の笑みが浮んでいる。
「知っていたのか、お前」
「ああ。まさかこんな絶妙な場面で来るとは思っていなかったけどな」
 会話を交わす間にも、次々と矢が打ち込まれる。距離がある為に実害は少ないが、それでも乗組員の何人かが肩や腕を抑えながら蹲った。
「‥‥ちっ」




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あきゅろす。
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