[携帯モード] [URL送信]

「華を織る」
01 ◆3◆
◆3◆




 覗き込んでいた遠眼鏡の遥か先、やや霞がかった水平線上に、ちらりと何かが映った。
「、」
 慌てて物見台から身を乗り出す様にすると、少年はじっと目を凝らす。
 つい先程まで感じていた目の疲れも腕のだるさも、瞬時に消え失せていた。
「どうした坊主。何か見付けたか?」


 異変に気付いたのだろう、背中合わせで逆方向を見張っていた年輩の船員が、訝しげに振り返ると少年と同じ方向へと遠眼鏡を向ける。
 横にも縦にも身体の大きな船員が隣に並ぶと、たちまち物見台はぎしりと嫌な音を立てた。
 船一番の巨躯にも関わらず、恐ろしく遠目が利く上に少年の倍以上の速さで帆柱をするするとに昇ってしまうのだから、人は見かけによらない。


「影が見えます」
「‥‥お、本当だ」
 程無くして船員は頷くと、おおい!と遥か眼下の甲板へと声を張り上げた。
「船影発見!」
「なに、どこの船だ!」
 進路の確認をしていたのだろう、幾人かの船員と真剣な表情で海図を囲んでいた舞剣だったが、頭上を振り仰ぐとすぐさま声が返された。


「形からして北雪の貨物船のようです!」
「よし、信号旗を揚げろ!」
「了解!」
 威勢の良い声と共に、たちまち「停船されたし」の信号旗が船上に翻る。
 貨物船側もこの合図に気付いたのだろう、今では肉眼でも確認できる様になった船影が、ゆっくりと速度を落としていくのが分かった。




[*前][次#]

17/99ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!