「華を織る」
10
「亜紀」
「はい?」
「その、‥‥もし、仕事が早く終わったら、」
慎重に言葉を吐き出しながらも、桜木は心の中で自問自答を繰り返す。
良いのか?俺。
そんな事を言ってしまって、本当に良いのか?
「‥‥もしかしたら、真夜中まで仕事が入るかもしれない。でも、祭は明け方までやっているし、」
ああああ、何を言っているんだ、俺。
言い訳じみた事ばかり並べて。もっと気の利いた言葉で誘えないのか。
「遅くなったら寝てくれていて構わない。でも、もし、」
「はい!俺、待ってます」
「、」
皆まで聞かずに上げられた亜紀のはしゃいだ声に、桜木は思わず言葉を切った。
「‥‥良いのか?ずっと待たせる事になるかもしれないのに」
「大丈夫です。寝ないで待ってますから」
「すまない。なるべく早く、迎えに行くから」
「はいっ」
ぱっと綻ぶ様な笑顔を浮かべる亜紀に、内心ほっと安堵しながらも。
「‥‥情けないな、俺は」
「え?」
「ああいや、なんでもない」
誤魔化すように笑うと、やれやれと自嘲気味に前髪をかき上げる桜木であった。
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