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「華を織る」
06


 そっと手を伸ばし亜紀の黒髪を優しく撫でると、麻乃は桜木へ軽く頷き部屋を出て行く。


「‥‥」
「‥‥」


 途端、何故か途切れてしまう二人の会話。
 期せずして二人きりになってしまった為か妙に相手を意識してしまい、互いに何となく俯いてしまう。
「‥‥ええと、」
 何か。
 何か言わなければ。
 咄嗟に言葉が出て来ず、桜木は焦る。――ええい、何をやっているんだ俺は。いい歳をして、これじゃあ初めて恋をしたばかりの子供と同じじゃないか。


「、」
 ――そうだ。
 ふと懐の中の物を思い出し桜木は顔を上げた。矢崎から譲り受けた黒水晶をそっと取り出す。
「亜紀、」
「はい?」
「これを」
 思わず亜紀の手を取りかけ――しかし己の指先をぐっと握り――、そのまま拳を亜紀の方へと差し出した。
「手の平を上に向けて?」
「こう、ですか?」
「うん、そう」


 素直に上向かれた亜紀の手の平へ、静かに黒水晶を乗せる。
「、え?」
「お土産。約束しただろう?」
「ええ?!」
 ええええっと大声を上げた亜紀は、慌てたように手の平を握り締め、更に慌てたように手の平を開き。
 再び、ええええっと声を上げた。
「え、あの、これ。‥‥ほんとに?」
「ああ」
「俺、貰っちゃって良いんですか?」
「ああ」
「‥‥ありがとう、ございます」


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