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「華を織る」
05


「へえ、そんなに玉城って綺麗なんですか」
 興味津々といった様子で身を乗り出すと、亜紀は桜木を見上げた。
「ああ。夜になると外壁に灯が点って、城全体が浮かび上がる様でね。遠くから眺めるだけでも本当に美しかったよ」
「うわあ、そうなんですか」
 頷きながら答えた桜木に、亜紀は感嘆の声を上げる。


「玉石の採掘も再開したようでね、早速出来立ての装飾品を運んでいた旅商人もいたよ」
「玉城から採れる石って少し白みがかってて、女性に大変人気があるらしいですから」
「そうなんだ。俺、装飾関係はちょっと疎いからなあ」
「駄目ですよ、桜木様。女性の好みはきちんと押さえておかないと」


 冗談めかした口調で亜紀が言い、そうだなあと桜木が笑う。――翠茶を片手にすっかり打ち解けた様に会話を弾ませる二人の姿に、二杯目の茶葉を準備しながら麻乃はこっそりと笑みを浮かべた。
 先程初対面を終えたばかりの琥珀は早速亜紀の膝の上に居を移し、すっかり寛いだ様子で目を細めている。
 ――良い雰囲気ですね。
 まだ『華剣』の件が残っているが、この様子なら存外すんなりと受け入れてくれるかもしれない‥‥期待を込めながら、茶器へと湯を注ぐ麻乃であった。


 その時、再び扉を叩く音が遠慮がちに響いた。
『麻乃司書、いらっしゃいますか』
「はい、どうぞ」
 麻乃の返事を受け、扉を開いた同僚が顔を覗かせる。
「城下の薬師の方がお見えです。調べて欲しい書物があるとか」
「分かりました。今から伺います」
 頷き返すと背後を振り返る。何事かとこちらを伺う二人へ向かい、ちょっと出てきますと告げた。


「お客様が来られたようです。桜木、お代わりはこの茶器に入っていますから」
「ああ、ありがとう」
「さほど時間は掛からないと思いますので」
「行ってらっしゃい、麻乃様」
「行ってきます、亜紀」

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