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「華を織る」
03

◆◆◆◆◆



「そろそろ来る頃ですね」
 見上げていた時計から視線を戻した麻乃は、先程から落ち着かない様子で本棚の前を行きつ戻りつしている幼馴染に、呆れたような目を向けた。「――少しは落ち着いたらどうですか?桜木」
「別に俺は落ち着いているが?」
「でしたら座っていて下さい。私まで忙しない気分になります」
「‥‥すまない」


 溜息混じりに麻乃が指差した椅子に、桜木はしぶしぶ腰を下ろす。
 往復を繰り返す桜木の足元に最初のうちは面白がってじゃれついていた琥珀も、今ではすっかり飽きてしまったらしく麻乃の膝の上に座り込んでいた。


 そう、麻乃の言う事は尤もであるのだ。うろうろと歩き回った所で何が有る訳でも無い。
 しかし亜紀の出現を今か今かと待ち受けている桜木には、何もせずにじっと座っている事は至難の業だった。
 どうにもこうにも落ち着かない。生まれて初めて恋をした少年でもあるまいしと内心苦笑してみるも、上手くいかない。懐に忍ばせた黒水晶の存在も、桜木の心を逸らせていた。
 ああ本当に俺はあの子が好きなんだな――服の上から黒水晶にそっと触れながら、もう一度苦笑する桜木であった。


「――ところで、」
 琥珀の柔らかな縞の毛並みを撫でながら、麻乃は桜木を見詰めた。
「抜け出してきて、本当に大丈夫なのですか?また宮古殿にご迷惑を掛けているのでは」
「大丈夫大丈夫、今はちょっと暇なんだ」
 問題ないよと桜木はひらひらと手を振る。‥‥『何処へ行くんですか華剣!!』と鬼の形相で叫ぶ副官から、全速力で逃げ出して来た事は、無論この真面目な幼馴染には内緒である。




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