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「華を織る」
02


 亜紀の焦ったような言い訳は何処吹く風、頭上に広がる晴れ渡った青空の様に大らかに笑うと、老人は亜紀の背中を軽く叩いた。
「行っておいで亜紀。亜紀の祈りは、きっと織子様に届いておるよ」
「‥‥だと良いんですが」
「大丈夫、わしが保証するぞ。ささ、気を付けてお行き」
「はい、行ってきます」
「いやはや、若いとはほんに良い事じゃ」
「ですから和爺様!」


 そういうんじゃないんですってばっ、と振り返りながら赤い顔で叫ぶ亜紀。
 相変わらず長閑に笑っている老人へ何事か言い掛けるも、諦めた様に苦笑を浮かべながら踵を返した。
 いくら機転の利く亜紀とは言え、老獪な爺のからかいには到底叶わない。しかもその声には、限り無い優しさが垣間見えるのだ。
「‥‥ありがとうございます、和爺様」
 小さく呟くと、本を落ちない様にしっかりと背負い直した亜紀は、都城への足を速めた。





 ‥‥だから、気が付かなかったのだ。





「‥‥」
 遠い物陰から亜紀達の遣り取りの一部始終を覗き見ていた、一対の鋭い瞳がある事を。






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あきゅろす。
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