「華を織る」
05
「‥‥」
――酷な台詞だったかもしれないな。
『良い船乗りになる』と告げた時の少年の嬉しそうに上気した顔を思い出し、蒼川は心の中で小さく呟く。
予め未来の定められている者に対し、安易に告げてはいけない言葉だったのではないだろうか。
見なくても良い夢を、余計な希望を、与えてしまったのではないだろうか。
「‥‥ま、仕方ない」
今更後悔してももう遅い、一度出た言葉は二度と戻らない。
それに俺はあくまで本心を述べたまでだ、決して嘘は吐いていない。
身のこなしの軽さや手先の起用さ、揺れへの身体の沿わせ方は、初心者にしてはなかなか大したものだ。
彼は本当に良い船乗りになれそうだ。いや、きっとなるだろう。なるだろうに‥‥
「――さあ皆もうちょっとだ、頑張って漕いでくれ!」
「はいっ」
「承知っ」
船員達を鼓舞するように一際明るい声を掛けると、心の呟きを振り切る様に蒼川は海の彼方へと視線を向けた。
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